◆オーナー、媒介業者間で合意があったとしても無効

前回の投稿も判例を中心にお伝えしましたが、今回も個人的に非常に気になる判例を目にしたのでお伝えします。
個人の不動産オーナーの確定申告などで、新たに賃借人が入った際、多くのケースで敷金や礼金の授受があります。最近は敷金、礼金完全無料と謳って募集をかけているものもよく見ますが、家賃が割高であったり、他の名目で費用を負担させられていたりと、いわゆるゼロゼロ物件にはそれなりの理由があります。脱線しましたが今回の判例はそういったものではなく、賃借人から受領した礼金等の金銭を、媒介業者(仲介業者)が広告費名目でオーナーから収受することは、例え両者間で合意があったとしても、宅建業法違反で無効としたものです。

これ、不動産所得の確定申告をしていて特に感じていたのですが、かなりのケースで礼金と広告宣伝費が相殺になっていると思います。完全に相殺とまではいかなくとも、半分はオーナーへ、半分は業者へというパターンもありますが、東京地裁の判決では明確に宅建業法違反としています。全文を掲載すると長くなるので、以下判決の要旨です。

X(業者)は、本件契約に先立ち、Y(オーナー)に対し、近時の賃貸物件の供給状況では、貸主が広告料名目で元付業者に対し金員を支払うのが一般的であり、本件建物の賃貸を仲介するに際しても、Yに広告料を支払ってほしい旨求めたところ、Yが、自分が出えんをして広告料を負担するということに難色を示したので、Xにおいて、テナントから礼金名目で金銭(通常は賃料の2か月分)を徴収し、これを広告料に充てることを提案し、Yの了承を得た。Yは、これを否定する旨の主張をするが、4件の各契約書には、礼金の規定が明確に表示されており、投資物件としての運用を目的としたYが礼金が未払であることについて問題としなかったとは考え難いのであり、Yの主張等は、採用することができない。

 

判例って読みにくいですよね。。ここでは、業者がオーナーに対して、募集をかけるのはある程度費用が掛かることなので、その分を負担してねとお願いしたところオーナーに拒否られたため、じゃあ礼金から差し引くよ?いいよね?という合意を交わしたみたいです。はて何のことやら?とシラバックれるオーナー。容赦なく一蹴する裁判長。続きです。

 

礼金取得合意は、賃借人から礼金との名目の下に賃料の1か月又は2か月分相当額の金員を出えんさせることを前提として、これをXにおいて広告料の名目により取得することを認めるものであるが、このような合意は、宅建業法の定めに違反し、無効であるというよりほかはない。
本件以外でも、広告料名目の金銭の収受が行われる実態が認められるとしても、このような実態に基づく運用が強行規定である宅建業法の規定を空文化する効力を持つような慣習法として確立しているとは言い難く、上記Xの主張によっても、前記判断を左右するに足りない。

 

礼金とは、借主がオーナーに対して、物件を貸してくれてありがとうございます、これからお世話になります的な意味で金銭を渡す、古くから伝わる慣習的なものかと思います。菓子折りみたいなものでしょうか。この礼金について裁判長は、業者が広告費名目で受け取る金員はダメ!宅建業法違反!としています。さらに、

 

Yは、礼金名目の金員について、Yが取得すべき金員をXが預かり又は留保したとして、その引渡しを求めている。しかし、この礼金は、強行規定を潜脱する目的で、Xが広告料名目の金員を取得するために定めたものであるから、各賃借人とY間の礼金支払合意も、礼金取得合意と同様に、宅建業法の規定に反し、無効である
Yは、各賃借人から支払われた礼金名目の金員を取得する正当な権限を有しないから、これを自らに引き渡すべき請求をすることもできないというべきであり、Yの礼金の引渡請求は、各契約を通じ、前提を欠いて、理由がない。礼金は本来賃借人に返還すべきものであり、礼金名目の金員の支払について、賃借人との関係でXに助力したYがこれを取得すべき理由はない。

以上、(東京地裁 平成25626日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)より引用

オーナー、礼金は俺がもらうべきものなんだからよこせ!と主張しますが、広告費名目で金銭収受=宅建業法違反=オーナーが収受する権利なしと下されています。つまり、最終的な権利帰属者がいないことになり、この金銭は借主に返還すべきものと解釈されます。オーナーも業者もどっちも涙目っていう判決です。

 

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◆業者が徴収できる広告費は、あくまで実費分のみ!

広告費名目で礼金などを徴収するのは、業界にとって常套手段だと思いますが、上記判例でもある通り宅建業法違反となります。業者が収受できる報酬の額は、宅建業法によって明確に定められておりますが、別に徴収できる広告費とは、大手新聞の広告料等、報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告費用としており、さらに、特に依頼者から広告を行うことの依頼があり、その費用の負担につき事前に依頼者の承諾があった場合に限り、その実費を受領できるとしています。

読んで字の如く、感謝の意味を込めて支払う礼金。そういうものなんだと諦めていたオーナーさんを沢山見てきましたが、業者の利益追求に捕らわれず、確実にオーナーのもとへと渡ってほしいものですね。

 

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